注: 2024-10-01 までの経緯についてはおそらく一番まとまったこちらの記事を先に参照することを推奨します。
WordPress と WP Engine の闘争、というか Matt (Automattic) による WP Engine への扇動的かつ一方的な攻撃が話題となっている。日本語圏はなぜか暢気なものだが、今回の件は非常に重大であり、WordPress の歴史において分岐点になりかねない。少なくとも Reddit ではそれなりに紛糾しているようだ。
広く同意が得られる見解ではないかもしれないが、個人的にはかなり以前から Matt Mullenweg による WordPress の私物化・私有化の傾向を感じていた。彼の保有する Automattic はフリーミアムな商売をする企業の見本のようなもので、これらの企業はしばしばオープンソースの理念を曲解・援用することがある。確かに彼らは自らの OSS に多大な貢献をしているが、動機は営利に過ぎない。彼らが発言するときに OSS 利用者などコミュニティの同意や意思は必ずしも含まれない。彼らは自分たちの利益とオープンソースの理念を混同して発言する。意図的であればまだマシで、確信犯の場合は改善が望めない。
ともかく整理すると:
- WP Engine の貢献が少ない、という主張はまあ妥当。俺の作った商売道具を勝手に使うな程度の意味でしかないが。
- WP Engine に “WP” は WordPress を想起させるから使用するな、という主張は WordPress.com の存在を考えると公平性に欠ける。WordPress.com が特別扱いされる理由は? コミュニティが (既成事実でなく、また事実上選択肢のない議題としてでもなく) 支持した事?
- WordPress.org から WP Engine を ban したのは疑いなく危険、Matt Mullenweg が WordPress における独裁者であると宣言したようなもの。
- JetPack から WP Engine を ban したのであれば、WordPress.org === Matt (Automattic) である強い証拠になる。
もっと進めると:
- 特定個人の機嫌を損ねただけでコミュニティの議論を待たずに WordPress.org から排除される可能性がある。
- WordPress は特定のプラグイン (WP Engine の保有する Advanced Custom Fields など) を破壊する方向に進むことができる。
時系列 (なるべく UTC 基準):
- 2003 年、Matt Mullenweg が b2/Cafelog から WordPress をフォーク。
- 2005 年、Matt Mullenweg は WordPress と関連プロジェクトに専念するために Automattic を設立。
- 2010 年、非営利団体 WordPress Foundation が設立される。
- 商標を含む WordPress のすべての知的財産は WordPress Foundation に譲渡される。WordPress Foundation は Automattic にすべての商標を商業的に利用する独占権 (他社へのサブライセンスなども含む) を与えているようだ。
- 2022 年現在、財団の理事は Matt Mullenweg と他 2 人 (MATT MULLENWEG, CHELE CHIAVACCI FARLEY, MARK GHOSH) である (少し詳しい説明)。
- WordPress.org の whois には 2024-09-30 時点で何の情報も含まれない。WordPress.org は Matt Mullenweg の所有している企業 Mobius Ltd の管理下にあり、WordPress Foundation の所有・管理下にはないようだ。
- WordPress Foundation には不透明な部分が多いが、Automattic・Matt Mullenweg とほぼ同一であるとの論調が多い。
- 2010 年、WordPress Foundation が WordCamp を商標登録する?
- 2014 – 2015 年、プレミアム WordPress テーマ Thesis と Automattic の闘争。
- 2018 年以降、Automattic 関係者は 16 回、WordPress リリースを指揮する。
- 2024-05 頃に 2012 年から Automattic に勤務していた Paul Sieminski が CLO (Chief Legal Officer) を辞める?
- 2024-07-12 WordPress Foundation が “Managed WordPress” と “Hosted WordPress” の商標登録を申請
- 2024-09-19 Matt Mullenweg が他社の貢献についてあいまいな発言を行う。
- 2024-09-20 Matt Mullenweg が WordCamp US 2024 の基調講演・閉会スピーチで WP Engine を非難する。WordCamp の行動規範に反しているとの声も。
- 2024-09-23T22:52:09.000Z WP Engine が “Automattic” (WordPress Foundation でなく) に送付した書簡 (停止通告書 (Cease and Desist letter・警告書)) を公開。この中で WP Engine は、2024-09-20 以前に Automattic が WP Engine に対して金銭の支払いを要求していたと主張。
- 2024-09-24 WordPress Foundation の商標ポリシーが更新?
- 2024-09-24 Reddit で、Matt 自身が WP Engine に収益の 8% を要求したことを認める
- 2024-09-25 Automattic が WP Engine に書簡を送付。商標に関するもの。
- 2024-09-25 WP Engine is banned from WordPress.org
- 2024-09-27 WP Engine ban が解除 (一時的? 2024-10-01 まで?) される。
- 2024-09-27 (本気ではないかもしれないが) Matt が Advanced Custom Fields Pro (WP Engine の所有物) を WordPress core に組み込むことを提案
- 2024-09-29 Making WordPress Slack から ban される開発者が表れ始める。
- 2024-10-01 WP Engine is banned from WordPress.org, again. 直後に WP Engine は (迂回手段を用いて) アクセスを回復。
- 2024-10-01 WP Engine の CEO、Heather Brunner に対する Matt Mullenweg の個人的な確執への指摘。
- 2024-10-01 Automattic の従業員に、Matt Mullenweg の行動に同調できず退職する場合は退職金の割り増しが掲示されたとの噂。
- 2024-10-02 Automattic が WP Engine との商標に関する議論のタイムラインを公開。Automattic が WP Engine に送付したとされる契約書は一般的な営利企業が同意できるものには見えない。
- 2024-10-02 Automattic が商標に関する説明を公開。
- 2024-10-03 WP Engine が訴状?を公開。この中で、WP Engine の CEO、Heather Brunner に対して Matt Mullenweg は個人的な攻撃をしていると主張されている (35 頁目、19 行付近から)。過去 7 年間、Matt Mullenweg が、偽証罪の罰則を受けながら WordPress Foundation に代わって米国内国歳入庁に提出する書類に記入した、とあるが法的な刑罰が発生したかの表現であるかは不明。(15 頁目、7 行目)
- 2024-10-03 WordPress のエグゼクティブ ディレクターである Josepha Haden Chomphosy 氏が Automattic を退職?
- 2024-10-03 Kellie Peterson (元 Automattic のドメイン責任者) による告発。少なくとも 2024-10-01 の退職に関する噂は事実であったようだ。
他のまとめ: